「救われたのは誰だったのか?」~森見登美彦 「夜行」を読み終えて~

日記
Peggy_Marco / Pixabay

読書三昧の日々

年末年始は読書に明け暮れる決意をしていた。

KindlePaperWhiteを嫁からクリスマスプレゼントとしてもらったこともあるし、Kindleで購入した電子書籍がたまっていたからでもある。

電子書籍は物理的な積ん読にはならないが、心の積ん読は紙の本を買うのと何ら変わることはない。

なので、読む暇がなくても電子書籍で買うことは「積ん読ですら読書である」と賢人の智恵なのである。

と嫁に「購入して読んでいない電子書籍の総額」を問い詰められたのだが、「読まないのに金を払うのはバカじゃねぇの」という嫁の総攻撃を受けて「未読本を減らさないと新しいKindle本を買っていけない」という厳罰を食らっているのである。

というわけで、「夜行」(森見登美彦)を先ほど読み終えた。

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森見登美彦が「怪談×青春×ファンタジー」の新作を10年目の集大成として書き上げたのが「夜行」であり、これは読まねばならぬ、と結構前に買っていたのだが、ずいぶんと後回しになっていたが、昨日の夜に手を出して一気に読み終えた。

森見登美彦とは

さて、感想である。断じて解説ではない。なぜなら、まったく理解せずに読み終えてしまったから、印象しか書けないのだ。

森見登美彦は「境界線を曖昧にする」のがとてもうまい作家である。

これまで「四畳半神話体系」と「夜は短し歩けよ乙女」の2冊を読んだことがあるが、どちらも(現実の)京都を舞台にした物語であるが、バカ騒ぎの中にいつの間にか「異世界」が顔を出す。

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それも夜の霧のようにするりと忍び込み、気がついた頃には、「陽性のさみしさ」をたたえた現実と虚構の境目が曖昧になった白い繭のような空間が現れる。

しかし、終盤になるにつれ、白い繭はどんどん薄れていき、「さぁ、さみしさを抱えて、現実を強く生きろ」と背中を押し出してくれる、そんな作品だった。

夜行の「腐臭」

しかし、夜行の物語はどう解釈して良いのかわからない。この物語は何が始まって、何が終わったのだろうか?

あらすじは簡単だ。10年前の鞍馬の火祭りで突如一人の女性が5人の前から忽然と消息不明になった。

10年後、鞍馬の火祭のために再会した5人はいずれも岸田道生が描いた「夜行」を巡って不思議な体験をしていた。それを一人ずつ語って行く物語だ。

しかし、それぞれの体験は話が進むにつれて奇妙になっていく。どのように奇妙なのかは是非とも読んで欲しい。

先ほど、森見登美彦は「陽性のさみしさ」を表現するのがうまいと説明したが、本作ではどの章にも遺体の上に秋の落ち葉が降り積もり、夜の闇の中に静かに腐っていく臭いが濃厚に薫っていた。

ただ、何が臭うかはひとによって違うだろう。なぜなら、本作がかき立てるのは誰もが持っている「戻ってはいけない秘密の空間」の臭いなのだから。

戻ってはいけない秘密の空間の臭いは人様々だ。しかし、その薫りは危険だ。 戻ったら二度と暁光を見ることができない永遠の夜の繭に包まれることがあるからだ。

夜の繭

本作においての「繭」はひたすら闇でできている。 だが、その繭の糸はどこから来たのか、どういう形なのかはっきりしない。いつから語り部がその繭に入ったのかもはっきりしない。それぞれの語り部がその繭からどうなったかもわからない。わかるのは、「秘密の空間」が姿を現したことである。

ボクもあなたも、子供の頃に経験した「触れてはいけない空間」を持っている。 忘れたその空間が日常のふっとしたことがきっかけにどんどん形になっていき、ついにはその正体を、子供の頃にはわからなかった真実を含めて知ったとき、どうふるまうだろうか。そして、その場所にも戻れるとしたら?

そこに救いがあるとしたら? さて、本作で救われたのは誰だったのだろうか?

1回きりではもったいなく、どこまで深読みも解釈もできるのが本作だ。 時間を置いて再読し、より理解を深めたうえでまた色々妄想を楽しみたい。

では、とりあえずこれくらいで。

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