野口悠紀雄『「超」創造法生成AIで知的活動はどう変わる? 』書評:生成AI時代に求められる「創造力」とは何か

読書ログ

私は野口悠紀雄氏の創作やAIに関する著書は昔から貪るように読んでいて、最新作『「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる?』をようやく読むことができた。本書は、生成AIの急速な進化が私たちの仕事や創造活動にどのような影響を与えるのか、そしてその時代に求められる能力とは何かを鋭く問いかける内容で、これまでの本の中でもかなりクリティカルな進化を野口氏が感じてるように感じた内容の一冊だった。

AIは人間の知的生産にどのような影響を与えるか?

野口氏は、AIが人間の知的活動に大きな変化をもたらすと予測しており、その変化は印刷術の発明やインターネットの登場に匹敵するほどだと考えている。特に、今まで人間が行っていた知的活動の多くをAIが高速で処理できるようになるため、多くの人が「自分の仕事はAIに奪われるのか」「AIによって自分の仕事の価値は高まるのか」という問題に直面するだろうと述べている。

著者は、この変化は産業革命以来機械が行ってきた単純労働の代替とは異なり、知的労働にも大きな影響を与えると指摘している。また、AIによって仕事の生産性が向上することで、結果的に失業者が出る可能性も示唆している。さらに、AIの能力向上によってWeb上の情報が正しく読めるようになれば、Web上の記事配信サイトの経営が成り立たなくなるという問題も提示している。

そして、AIが生成する質の低い文章がネット上に溢れかえれば、質の低い情報が質の高い情報を駆逐してしまう「悪貨は良貨を駆逐する」という事態も危惧している。

生成系AIは「優秀な助手」か

本書で野口氏は、生成AIを「優秀な助手」と表現している。確かに、生成AIは文章の翻訳、要約、校正など、知的作業の効率を飛躍的に向上させる。しかし、忘れてはならないのは、生成AIはあくまで人間の指示に従って動く道具であるということだ。

野口氏は、生成系AIを用いた文章作成で最も重要なことは、最初のアイデア、つまり書くべきテーマを自ら発見することだと強調する。生成AIは、指示された内容を文章として表現するものであり、想像力を持って新しいアイデアを生み出すことはできない。いくら「世の中をあっと言わせるような文章」や「文学賞で入賞できる作品」を書いてほしいと頼んでも、生成AIは答えてくれない。文章の内容は、人間が考え出さなければならないのだ。

生成系AIは、人間の頭の中に漠然と存在するアイデアを、筋道立てて表現する過程を助けることはできる。しかし、そもそも頭の中に何もなければ、AIに指示することすらできない。文章作成において、生成系AIはあくまでも補助的な役割を果たすものであり、中心的役割を果たすのは人間であることを忘れてはならない。

生成AI時代の「創造力」の重要性

生成系AIは、テーマの選択以外の文章作成プロセスを効率化してくれるため、テーマ選択の重要性は以前にも増して高まっている。野口氏は、生成AI時代において重要となる5つの能力を以下のように挙げている。

  1. テーマを見つける力: 情報収集のハードルが下がった今、どのようなテーマを選ぶかが重要になる。
  2. アイデアを生み出す力: 新しいアイデアは、既存の知識の組み合わせから生まれる。日頃から多くの知識を学び、それらを組み合わせることを意識する必要がある。
  3. 文章を遂行する力: AIは文章の構成や校正は行えるが、最終的には人間が文章を遂行し、質の高い文章に仕上げる必要がある。論理的思考力や表現力などが求められる。
  4. AIを使いこなす力: AIの得意分野、不得意分野を理解し、適切に活用していく必要がある。
  5. 人間の感性を磨く力: AI時代においても、人間の感性や感情に訴えかける文章は高い価値を持つ。日頃から芸術に触れたり、人間関係を築いたりする中で、感性を磨くことが重要となる。

これらの能力を磨いてていくためには日頃の学びが必要で、これからの世の中では決して勉強をサボってよいわけではなく、むしろその逆で学びを深めるためにAIを使っていくことが求められているのである。

生成系AI時代の学習機会:変化と課題

野口氏は、生成系AIは翻訳や要約などの単純作業を効率化するため、人間はより創造的な活動に時間を割けるようになり、また、新しい知識習得よりも新た棚観点から既存知識の組み合わせて課題解決をする能力が求められていくという。同時にAIの特性を理解し、適切に指示を出す生成系AIを使いこなす能力の必要性も上がっていくだろう。

AIを使いこなすためには従来型の知識詰め込み型の教育から、創造力や問題解決能力を育成する教育への転換が必要となると述べている。しかし、例によって日本では(そしておそらくは世界中で)多くの教育機関が生成系AIの登場に対応できていない現状を氏は嘆いているが、この分野は本当に始まったばかりであるし、日本政府も急速にAIの活用についての政策提言を出しているので、この先に期待したい。

驚異的な進化のスピードと人間の役割

それにしても、本書の出版から半年も経っていないにも関わらず、すでにAIの進歩によって内容がやや古くなっている箇所があることが気になった。それだけこの分野の進歩が驚異的であり、「この程度で落ち着くだろう」という天井が見える気配すらない。どこまで進化するのかを考えると怖い気持ちにすらなる。

私は三文ライターでしかなく、AIが進化したらまっさきに仕事を奪われかねない立場にある。しかし、野口氏の言うように、どのようにアイデアを作り出すかはAIには代替できない。だからこそ、私はアイデアを出すということに集中して頭を使って、アイデアを具現化することは最小限にしたいものである。

まとめ:AIと創造をまとめて考えるために

本書は、生成AI時代における創造活動の在り方について深く考えさせられる内容だ。野口氏の明晰な分析と実践的なアドバイスは、ビジネスパーソンだけでなく、あらゆる分野のクリエイターにとって有益な情報になるだろう。AIをどう活用していけばいいのか悩んでいるなら一度読んでみても損はないはずだ。

生成AIの進化によって社会全体が大きく変わってかもれない今、本書に限らず、さまざまな情報を得ていくことで自分がどのように生きていけばよいのかを考え続けていく必要性を強く感じている。そうでなければ飯が食えなくなりそうで不安な日々である。

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