【書評】『成瀬は天下を取りにいく』- 型破りの主人公が織りなす爽やかな青春小説

書評

本屋大賞受賞、話題沸騰中の青春小説

2024年本屋大賞を受賞し、NHKでも大きく取り上げられ、舞台となった滋賀県で話題沸騰中の小説『成瀬は天下を取りにいく』は、型破りなヒロイン・成瀬あかりが地元・滋賀県大津市を舞台に、彼女が巻き起こす日常を描いた青春小説である。

異色の経歴を持つ著者、宮島未奈氏

著者の宮島未奈氏は、静岡県生まれ、京都大学文学部卒業で、25歳のときに一度は小説家になる夢を諦めるが、結婚を機に滋賀県大津市に移住し、主婦業とライター業の傍ら、再び筆を執り始める。そして、2021年に短編小説「ありがとう西武大津店」で「女による女のためのR-18文学賞」で大賞を受賞する。この短編を含む『成瀬は天下を取りにいく』は、発売前から重版が決まり、韓国での出版も予定されるなど、大きな注目を集めている。

型破りだけど魅力的なヒロイン、成瀬あかり

主人公の成瀬あかりは、「変人」と評されるほどの型破りな少女である。髪の毛の伸びる速度を測るために坊主頭にしたり、閉店間際のデパートに通い詰めたりと、突拍子もない行動を繰り返す。しかし、彼女は天才的な頭脳を持ち、学業でも優秀な成績を収めている。そして、常に目標を掲げ、どんなことにも全力で取り組む情熱的な一面も持ち合わせている。この小説は幼馴染やクラスメイト、一目惚れした少年などに影響を与え続けていく。

地元愛溢れる舞台設定とノスタルジックなエピソード

この小説の魅力の一つは、滋賀県大津市への深い愛情が感じられる点である。実在する場所や地域特有のエピソードが随所に織り込まれ、郷土愛あふれる描写が読者の心を温かくする。特に印象的なのは、大津市で44年間営業し、閉店した「西武大津店」のエピソードである。地元住民に愛されたデパートの閉店は、地域にとって大きな出来事として描かれ、ノスタルジックな感情を呼び起こす。このような地域の変化はその土地の人にしかわからない思い出になっていくが、この心の機敏をきれいに映し出しているように感じた。

成瀬の成長と周囲の人々への影響

物語を通して、成瀬あかりという少女の型破りさが周囲の人々に影響を与え、それぞれが成瀬を通じて成長していく姿が描かれる。しかし、最終章「ときめき江崎音頭」では、幼馴染が東京への引っ越しするという言葉をきっかけに精神的に落ち込んでしまった成瀬が、人との関わりの中で立ち直り、成長していく姿も描かれている。彼女もまた決して孤高の存在ではなく、人と関わることで成長していく少女であることが明らかにされることで物語に厚みを与えている。

読者の感想:爽やかな読後感と心に響くメッセージ

最近の話題作は現代社会の闇や問題を深くえぐるような重たいテーマの小説が多く、読むのに疲れてしまうこともあった。しかし、この『成瀬は天下を取りにいく』は、地元愛に溢れた型破りなキャラクターが織りなす爽やかな青春ストーリーで、まるで初夏のような新鮮な気持ちにさせてくれた。

故郷を離れて都会で忙しく生活している人々や、日々の生活の中で他人の目を気にして小さくなってしまっている人々にとって、この小説はきっと心に響くものがあるはずである。肩肘張らずに読める作品なので、ぜひ多くの人に読んでほしい。

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