超短編小説の勉強してます
こんばんは。くらげです。
週刊キャプロア出版に参加してます
実は、というほどでもないのですが、ここ1年ほど、すでに廃れたと一般的には思われている(そして実際に寂れている)ファインテックベンチャー「VALU」発の企画である「キャプロア出版」に参画している。
キャプロア出版とはVALUで知り合った「きゃっぷさん」が「100人で文章を書いてキンドル出版したら面白いんでね!」と思いつき、実現させてしまった企画である。
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現在では毎週、電子文芸誌のようなものである「週刊キャプロア出版」という電子書籍をだしている。なんともう47号。ほぼ1年だ。私も数回リーダーを担当してる。(リーダーが毎回違う、という実験的企画でもある)
[amazonjs asin=”B07D373583″ locale=”JP” title=”週刊キャプロア出版(創刊号): 表現と発信”]
その他にも色々なシリーズがあるが、その中のひとつに「月刊ふみふみ」という文芸誌がある。
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これは週刊キャプロア出版の初期メンバーの仲谷史子さんが主催している「原稿を推敲する過程を全部公開しよう」という前提で作られている電子書籍だ。電子書籍ならばの構成である。
どういう出来になっているかはまぁ読んでいただくとして、最新刊には私の寄稿した。で、グループ内の投票で今回一位になったので記念にこの原稿を晒しておきます。まぁ、ネタがないので埋め記事ともう。
では、早めに今回はこれくらいで。皆様も面白い話を考えつつ踏ん張りましょう。では。
なめくじ
「ナメクジになってセックスをしたい」
雄太は鍋の白菜をお玉ですくいながら真顔で言った。
「今日の酒はだいぶ質が悪いようだな?」
「いや、まじめな話だよ」
雄太は相変わらず真顔で白菜を盛った小皿を私に寄越した。パキン、と割り箸を割り、アツアツの白菜を口に放り込む。しっかりしみ込んだ塩味の効いたスープと、旬の甘味がまじりあい、大変美味であった。確かにこの味を出せるような店が変な酒を出すわけもない。
「じゃ、なめくじが鍋の中に入っていたか?」
「真冬の白菜になめくじはいないし、まず、煮てる途中で溶ける」
「海鮮塩鍋だしな。じゃ、なんなんだよ、いきなり」
「今日は何の日だ?」
「非常に遺憾なことであるが、バレンタインだ」
私は残っていた梅サワーを一気に飲み干す。店内はいかにもバレンタインと縁がなさそうなオッサン連中でガヤガヤと華やいでる。まぁ、私もそんなオッサンの一員であるのだが。
「お前、彼女はどうした?」
雄太は3年は付き合っている彼女がいる。毎年のバレンタインはこんな居酒屋でなくフレンチレストランで過ごしているはずだ。それがいきなり「奢るから一緒に飲もう」と電話が来たのが2時間前だ。
「別れた」
「そうか。バレンタインにか」
「もらったチョコレートに『愛する祐樹へ』と書いてあった」
「だれだよ、祐樹って」
「浮気相手の名前だ」
そんなところであろう、とあたりはつけていたので特に驚きはしなかったが、またひどい浮気のばれ方があったものだ。
「酒、飲むか?」
メニューをめくりながら私は聞いた。
「強いのだ、畜生」
「山崎のロックでいいか?」
「国産ウイスキー?高いぞ?」
「バレンタイン当日に彼女の浮気が発覚した奴に奢るくらいの慈悲はある」
ほどなくして、グラスに注がれた黄金色の液体が運ばれてきた。雄太はガッとグラスをつかみ、風情のかけらもなく一口で飲み干し、中に残った氷をうつろに見ている。
「なめくじのセックスってみたことあるか?」
残ったたらの白身をつついていたら、雄太が顔を上げて聞いた。すこし目が潤んでいる。
「ないな」
「俺はある。子供の頃、夏休みの自由研究でなめくじを飼ったんだ」
「悪趣味だ。だから振られるんだ」
「うるさい。それでな、なめくじってのは雌雄同体だ」
「理科の時間で聞いた気がするが、飯時に聞く話でもないと思うがな」
「バレンタインに振られたやつの話を聞く慈悲を発揮してくれ」
雄太は店員に水を頼んで、すこし口を湿らして話し続けた。
「なめくじの性器は頭にあって、コバルトブルーなんだ。想像できるか?あの醜い生き物が身体を輪を描くように絡めあって、宝石のように膨れ上がっているんだ。あれほど美しくて神秘的なセックスは見たことはないよ」
雄太はまるで愛撫するように細い両手の指を絡めながら、なめくじのセックスのことを話す。顔の紅さにはウィスキー以外の何かが働いていた。
「お前、男になりきれなかったか?」
私もウィスキーを一息で飲み干し、言った。
「そうかもしれないね。やっぱり、子供は持てないから」
雄太の潤った目から一筋の涙がこぼれた。男のものとは思えない細い顎に伝っていく。
「人間は面倒だ、どちらかの性しか選べないんだから。」
「彼女、やっぱり子供が欲しいって」
「性転換手術はできても妊娠できないしさせることもできないからな」
「身体と心の性は一致しても子供は作ることはできないんだ」
「だから、なめくじか」
「そうだよ。雌雄同体でお互いに子供を作れる。これほど素晴らしい生物、めったにいないよ」
「まぁ、俺達にとっては、な」
「なぁ、性転換したヤツと寝るのか?ゲイは?」
「少なくともお前とは寝ないよ」
「そういうところは律儀だよね、君」
「そこだけ女言葉になるのはやめろ」
くくくっ、と雄太は笑った。私も笑った。
「飲むか」
「飲みましょう」
なめくじのセックスか。一度見てみたいかもしれないな、とウイスキーを注文しながら思う。
「そういえば、セックス中のなめくじってね、黄金色なんだよ。そのウイスキーみたいに」
「ふーん、じゃ、なめくじに乾杯!」
「雌雄同体に乾杯!」
なめくじのような琥珀色が、燃えるように鮮やかに絡み合いながら喉を降りてゆく。情熱的なセックスの味がした。